うおづるくん 舞鶴のさかな 一般社団法人舞鶴市水産協会

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投稿日/2021年3月1日

トビウオ

【日本海のさかなの話  最新の魚類学研究から】その②

トビウオ

今年は夏が長かったものの、秋は少しで一気に寒くなったという印象でした。そういえば、春も短かったような気がします。ご存じの通り今年の夏は記録的な猛暑で、水温もずいぶん高い状態が続きました。さて夏の魚と言えば、真っ先に思い浮かぶ魚の一つにトビウオがあるのではないでしょうか?もう季節は冬になりつつありますが、今回は夏の暑さを思い出しながらトビウオについての話題をお伝えしたいと思います。
このあたりでトビウオと言えば、「角とび」と「丸とび」の二種類が代表的なものです。学術的に言うと、「角とび」の標準和名はツクシトビウオ、「丸とび」の標準和名はホソトビウオです。ちなみに、「標準和名」とは、日本全国どこへ行っても同じ「種」を指すように学術的に決められた「標準語」のような和名のことです。しかし、「丸とび」の標準和名が「ホソ」トビウオなのはどうしてなのでしょうね・・・。
世界中にトビウオの仲間は50種ほど知られています。日本ではこのうち30種が分布しています。表層を泳ぎ回る魚なので、どの種も分布域がとても広く、日本でも多くの種が見られるのです。トビウオの仲間は、どれも似た形態をしているので分類の難しいグループです。しかし、羽のような胸鰭を広げると種ごとに違った模様が見られ、比較的容易に見分けられる種もあります。
トビウオの仲間は、大変特徴的な形態をしています。胸鰭はまるで鳥の羽のように大きくなっており、また大部分の種では腹鰭も大きくなっています。胸鰭と腹鰭を広げると、大きな四枚の羽を持つことになります(図1下写真:アヤトビウオの背面写真)。

図1

トビウオの仲間はこの四枚の羽ではばたくのではなく、滑空するように飛びます。さらに、尾鰭を見てみると、上半分よりも下半分の方が大きいことが分かります(図2下写真:ツクシトビウオの尾鰭)。

図2

これは、トビウオが水面から空中へ飛び出すときに、尾鰭の下半分を使って水を「蹴る」のに都合がいいと考えられています。胸鰭ばかりに注目されがちですが、それぞれの鰭も「飛ぶ」ことに特化しているのです。また、体の中を見ると、腸が大変短く、食べたものを迅速に消化・吸収し、排泄物を体外に出します。これによって体を軽くして、やはり飛ぶことに適応していると言えます。
トビウオの体が特徴的なのは、それだけではありません。「側線(そくせん)」と呼ばれる器官の位置が変わっているのです。「側線」とは、魚の体の側面に走っている線のように見える感覚器官です。普通の魚では鰓蓋(さいがい・えらぶたのことです)の上端から緩やかに背中側にカーブを描きながら尾鰭の付け根まで線が走っているように側線があります(図3下写真:チカメキントキの側線)。

図3

この側線、実際は鱗に穴が開いていて、それが並んでいるために線のように見えます。この「側線」で魚は水の震動や動きを感じ取ることができ、例えば敵が近づいてくるのを感知できたりするのです。
さて、トビウオの側線を見てみますと、通常の魚とは違い、側線は鰓蓋上端から下に向かって走り、腹部を走って尾鰭の付け根まで到達しています(図3上写真:ツクシトビウオの側線の位置)。これもトビウオの生態を考えてみると簡単に納得できます。通常、トビウオは海面近くを泳いでいます。敵が襲ってくるとしたら、横ではなく、下からのことが多いはずです。トビウオの側線の位置は、このようなことに適応した結果なのでしょう。
トビウオ類と比較的近い類縁関係にあるのは、サヨリの仲間やダツの仲間、が挙げられます。サヨリもダツ(ダツ、ハマダツなど)も舞鶴の市場では見かけることができます。面白いことに、これらの仲間は、成長のいずれかの段階で、下顎が上顎よりも長く伸びる時期があります。実はトビウオも生まれてからしばらくの間は下顎が上顎よりも長い時期があり、成長に伴ってだんだん上顎と下顎が同じ長さになります。ちなみに、ダツの仲間は、両方の顎が伸びています(図4下写真:ダツの顎)。

図4

しかし、成長を追っていくと、まず下顎が伸び、サヨリのようになります。続いて上顎が伸びてきて、私たちが通常眼にするダツの顎になるのです。「個体発生は系統発生(=類縁関係)を表す」という言葉がありますが、まさにこのようなことを指しているのです。
面白いことにトビウオの仲間には「飛べない」トビウオがいるのです。日本海ではほとんど見られることはありませんが、サヨリトビウオと呼ばれる種で、太平洋側では普通に見られます。名前に「サヨリ」が含まれますが、歴としたトビウオの仲間です。しかし、胸鰭が短く飛ぶことはできません。このサヨリトビウオ、トビウオとサヨリの中間的な形質をいくつか持つため、トビウオがサヨリのような魚から進化した事を示しているのではないかとも考えられています。
さて、通常の年であれば、舞鶴の市場で見られるトビウオは「角とび」ことツクシトビウオと「丸とび」ことホソトビウオで、稀に胸鰭が真っ黒なカラストビウオや、小型で大きくならないホソアオトビが見られる程度です。しかし、今年は水温が高かったせいか、秋口まで変わったトビウオが捕れていました。小型で体がやや黄色みがかるツマリトビウオ、胸鰭に目立つ斑点があるアヤトビウオが捕れていたようです。特にツマリトビウオはこれまで日本海で採集された記録はありませんでした。これらのトビウオ、たまたま対馬暖流に乗って日本海に入ってきたのでしょうけど、今年の猛暑はトビウオの分布にも影響を及ぼしていたのかもしれません。
【2010年11月号に掲載】

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