うおづるくん 舞鶴のさかな 一般社団法人舞鶴市水産協会

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投稿日/2021年3月29日

メバル

 この冬は例年になく雪が多かったですが、ようやく春の足音が感じられるようになってきました。この時期になるとよく見かけるようになるのがメバルの仲間たちです。メバル類は「春告魚」とも呼ばれ、この時期によく食される魚でもあります。
メバルの仲間は、分類の単位で言うと「メバル属」というグループに含まれます。このメバル属には、おなじみのメバル類のほか、ソイ類、メヌケ類なども含まれます。ソイ類は、メバル類に比べるとずんぐりした体型で、ムラソイやヨロイメバルなどを指すことが多いです。ムラソイは、このあたりでもカサゴなどに混じって釣れます。メヌケ類は、深海に生息するメバル属の俗称で、日本海では見かけることはほとんどありませんが、スーパーに行くと冷凍で「赤魚」として売られていることがよくあります。この冷凍の「赤魚」は、東北太平洋以北に分布するアラスカメヌケの事が多いようです。ベーリング海などでは多く漁獲されるため、日本へ冷凍で輸入されています。しかし、ソイ類やメヌケ類は、メバル類からはっきり区別できないため、分類の単位としては全て「メバル属」というグループに含まれているのです。
このメバル属、北太平洋を中心に分布していますが、その種数は110種以上と言われています。厳密に言うのは難しいですが、分類の単位である「属」には、たいてい数種〜十数種が含まれる程度ですから、メバル属の種数というのは驚くほど多いのです。これだけ種数が多いこともあり、メバル属には互いに似ている種類が多く含まれています。このために「同種」「別種」の判断が非常に難しく、昔から研究者を悩ませてきました。
例えば、近年(2008年)、「メバル」は複数の種を含んでいて、アカメバル、クロメバル、シロメバルの三種に分けられるとした論文が発表されました。このあたりでも、ごく普通に見る「メバル」ですが、確かに赤、黒、白(死ぬと焦げ茶になる)の体色のメバルが含まれています(写真1:シロメバル)。

写真1

このメバル三種は、色が異なるだけで「別種」とされたのでしょうか?しかし、一方で魚は環境に合わせて色を変えることが知られています。実は色の違いは単に生息場所による変異ではないのでしょうか?
この話をする前に、「種」とは何かということから始めたいと思います。実は、「種」の定義は本当に難しく、全ての生物に対して共通する「種」の定義は無いといってもいいでしょう。魚の場合、ごく簡単に言ってしまうと、「同種」とは、互いに交配して子孫を残すことが出来るグループで、「別種」とは、互いに交配しない、あるいは交配しても子孫を残すことが出来ないグループのことです。「メバル」の場合に当てはめると、赤いメバルと黒いメバルが交配して子孫を残すことが出来なければ、赤いメバルと黒いメバルは別種であるといえます。もし、これらが交配して子孫を残せるのであれば、赤いメバルと黒いメバルは同種で、色の違いは単なる変異と考えることが出来ます。
しかし、現実問題として、魚が互いに交配して子孫を残せるかどうかを調べるのは難しいことです。水中に潜って繁殖行動を観察できるのは極々一部の魚にすぎません。そこで、どうするのかというと、「間接的」に別種かどうかを調べるのです。つまり、互いに交配しなければ、遺伝子は混じりません。遺伝子が混じらなければ、それぞれの種には突然変異で特徴的な違いが見つかるはずです。さらに、遺伝子が互いに異なっていれば、何らかの形態の違いも出てくるはずです。このような遺伝子や形態の違いから「同種」か「別種」の判断をすることになります。
従来「メバル」と呼ばれていたものには、色が違うものが含まれることは昔から指摘されてきましたが、これらが同種か別種かの判断は長い間決着がついていませんでした。古くから形態的な研究は多くなされてきましたが、「メバル」の色が違うもの同士には、はっきりとした形態の違いが無かったのです。しかし、色が異なる「メバル」は、近年になって、遺伝子から調べられ、ようやくはっきりした違いが認められたのです。この研究をもとに、従来「メバル」と呼ばれていたものには三種が含まれていて、それらがアカメバル、クロメバル、シロメバルと呼ばれるようになった、という訳なのです。こんなに身近な魚での分類が、近年になってようやく整理された背景に、遺伝子を調べる技術がここ数年でかなり発達したことにあります。例えば、ある遺伝子の特定の領域を調べるには、ほんの2、3日でできるようになりました(写真2:遺伝子を自動で調べる装置、DNAシーケンサー)。

写真2

 「メバル」以外にもメバル属には、体色が異なっているために「同種内の変異」か「別種」かの判断がついていないものが結構含まれています。例えば、「ムラソイ」の中には「ホシナシムラソイ」と呼ばれる模様が少ないものや、「オウゴンムラソイ」と呼ばれる黄色の斑紋を持つものがいます(写真3:ムラソイ)。

写真3

これらは、色が異なるだけで形態的にはほとんど同じです。また、この時期、定置網で捕れる「キツネメバル」(体色は灰色)と底曳きで捕れる「タヌキメバル」(体色は薄い茶色)も、色が異なるだけで形態的な違いがほとんどありません。これらは現在研究中ですが、遺伝子レベルでようやく違いが明らかになってきています。なぜ、メバル属には、「色が異なるが別種か同種かの判断がつかない」ものが多く含まれているのでしょうか?
実は、メバル属の特徴の一つに、「胎生」という特徴があります。普通の魚は、体外受精で、雄と雌が水中に卵と精子をばらまいて受精させるという結構「アバウト」なスタイルです。これに対して、メバル属は雄と雌が交尾し、子供は雌のお腹の中で数ミリの大きさになってから産まれます。メバル属では、交尾するときに普通の魚とは異なって「雌が雄を選ぶ」という段階が一つ入ることになります。この行動はかなり慎重らしく、雄は雌の目の前でヒレを広げてアピールするものの、なかなか交尾に至らないことが知られています。まだ正確なことは分かっていませんが、どうやらこの「雌が雄を選ぶ」ときに、自分と似た体色のものを選ぶ(専門的には「同類交配」と言います)ことによって、うまく「別種」の関係を保っているのではないかと考えられています。メバル属は110種以上を含む多様なグループであることを紹介しましたが、ここまで種数が増やすことができた背景には、メバル属の慎重な繁殖行動が関わっているのかもしれません。
【平成23年3月30日掲載】

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