かまぼこ博士のかまぼこ百科
「かまぼこ博士のかまぼこ百科」は、舞鶴かまぼこ協同組合の辻義雄専務理事(舞鶴市民から「かまぼこと博士」呼ばれています。)が執筆され、2011年から約4年間にわたり、舞鶴市民新聞に連載されたものです。かまぼこ、とりわけ舞鶴かまぼこへの愛に満ちた「かまぼこ博士のかまぼこ百科①~㊺」を順次、21回に分けて掲載します。読めばあなたも「かまぼこ博士」。そして、舞鶴かまぼこがとても食べたくなってしまいます。
なお、当コラムに掲載するにあたっては原文のままとし、日時や役職、社名等も当時のままとしています。また、今では存在しないメーカー、商品もありますのでご了承ください。
自家製調味エキスの開発
舞鶴のかまぼこは近海の鮮魚を使ってかまぼこ作りをしているから、少しコストが高くても安心してお買い求めいただけるとありがたいと記したが、生鮮魚を使うということながら、せっかく原料に高価な魚を買っておきながら、魚肉を採ったあとの頭も内臓も骨皮も全部捨ててしまうということでは実にもったいない。
そこで、平成初期の数年間、大学の先生や、各界の技術者とチームを組んで研究を重ね、かまぼこの原料魚の残さいである頭と骨、皮については、煮出して、それに酵素処理を行い調味エキスとし、濃縮、調整し、これを舞鶴かまぼこの味付けに再利用する技術を確立した。
現在も、舞鶴では、一般の(化学)調味料だけに頼らず、自らの使用している魚の残債物から抽出したエキス(MK-C)を再び、かまぼこの味(香)付けに使っている。商品名のMK-Cは(Maizuru Kamaboko Co-op)の頭文字をとって命名した。尚、この研究成果について、私は、平成5年に京都府知事より創意工夫発明功労者表彰を受けた。
実はこの実験も、最初は失敗の連続で、大変苦労した思い出がある。
かまぼこ屋さんで昔、魚肉を洗うために使っていたステンのズンドウを集めてきて、ガス屋さんに大型のガスコンロをお借りして、その中に魚のアラ(内臓以外の残さい)を入れて煮込んでいくのだが、量が多いので、なかなか温度があがらず、絶えずかきまぜないと、底のほうで魚のアラが焦げ付いてしまう。
また、沸騰させてから、今度は、急速に出し汁を冷まさないといけないので、ビニールに大量の氷を入れた氷枕のようなものを大量に作ってズンドウに投入してかきまぜながら冷やすのだが、なかなか温度が下がらない。試験を真夏にしたせいで、温度制御のために、たくさんのズンドウ鍋の前で徹夜の実験作業を何回か繰り返した。こうした実験で、私は二日ほど家に帰ることができず、実験場となった当時のすりみ工場(第二工場)に泊まったことさえあった。
前の日に煮出ししているときに部屋中に良い匂いがして、工場の従業員さんたちが、私が何をしているのか興味津々で集まってきてくれたたりしたのだが、朝になると、出勤してきた従業員さんが全員、私におはようと言ったっきり、変な顔をして部屋を出て行くのである。理由は簡単なことで、温度コントロールが不完全だったため、徹夜したのにもかかわらず、朝になると、実験したズンドウ鍋のほとんどが、メタン発酵をおこして悪臭を放っていたのであった。
一晩中、鍋の横で奮闘していた私の身体や衣類には、この悪臭が染み付き、あまりの悪臭に翌朝、家に入れてもらえなかったという大失敗の経験をした思い出がある。
その後、何度も失敗を繰り返す中、いろんな人や会社に助けられて、なんとか調味エキスの生産を実現させることができ、この自家製調味エキス(MK-C)を舞鶴のすべてのかまぼこ屋さんに現在も使っていただいている。
しかし、悲しいことに、私どもが鮮魚残さいからエキスを抽出する工程を当初から外注していた石巻の工場が今年起きた東日本大震災で水没してしまい、その1月後に経営者が心労で急死したことで再起不能となり、生産のめどが立たなくなっている。