うおづるくん 舞鶴のさかな 一般社団法人舞鶴市水産協会

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カテゴリー: コラム

投稿日/2021年10月1日

舞鶴かまぼこの原料魚(その2)  かまぼこ百科⑮

かまぼこ博士のかまぼこ百科


「かまぼこ博士のかまぼこ百科」は、舞鶴かまぼこ協同組合の辻義雄専務理事(舞鶴市民から「かまぼこと博士」呼ばれています。)が執筆され、2011年から約4年間にわたり、舞鶴市民新聞に連載されたものです。かまぼこ、とりわけ舞鶴かまぼこへの愛に満ちた「かまぼこ博士のかまぼこ百科①~㊺」を順次掲載します。読めばあなたも「かまぼこ博士」。そして、舞鶴かまぼこがとても食べたくなってしまうでしょう。
なお、当コラムに掲載するにあたっては原文のままとし、日時や役職、社名等も当時のままとしています。また、今では存在しないメーカー、商品もありますのがご了承ください。

舞鶴かまぼこの原料魚(その2) 

エソはハダカイワシ目エソ科の魚で、世界中の暖海域に分布している。 巨大なアゴと鋭い歯を持ち、非常に獰猛で、写真のように漁獲された網の中でも捕食をして口に他の魚を丸のみしている姿をよくみかける。
舞鶴ではエソの種類はあまり気にせず使っていることが多いが、ワニエソ、トカゲエソ、マエソの3種類が主に漁獲されているらしい。
エソは肉色が非常に白い。グロテスクな魚であるが、藤六かまぼこの先代の店主がよくすりみ工場から、エソのアラを持ち帰って、よろこんで家で食されていたのを思い出す。
あまりにその姿がグロテスクで、顔だけを見ているとゴジラか、エイリアンのように見えたりするので、本当に美味しいのか半信半疑であったが、分析してみるとエソは旨みの非常に強い魚であるということがわかった。 やはり先代の舌は確かだったことが証明されたわけである。最近、エソは舞鶴で比較的よく水揚げされるようになっている。
鮮度のよいエソは、グチと同様に40℃~50℃で高温坐りをかけると弾力の強いかまぼこができる。 ただ、エソでつくる弾力にはグチのようなしなやかさが足りない。
ただ、焼き抜き(蒸さずに最後まで遠火で焼いてつくる)かまぼこについては、独特のよい食感がでるので、山口県の仙崎地区や紀州田辺、豊橋の焼きちくわなどの高級かまぼこを中心とする生産者は、舞鶴におけるグチと同じようにエソを重宝しているようである。
また、グチとの違いとして大きい特徴は、鮮度低下がかまぼこのアシ(=弾力)形成を致命的にするということである。 グチのように遠い漁場から運んできて、陸上ですりみにするということができず、漁場が遠いと、かまぼこの原料としてはあきらめないといけないくらいである。
また、冷凍にも弱く、エソは冷凍にすると、急速に冷凍変性がおこってかまぼこ原料にならなくなるのである。
いずれにしても、この魚をかまぼこにするためには、時間との闘いである。
舞鶴では、弾力面でのエソへの期待はなく、むしろ、味付けに利用しているため、鮮度が特によいものは板かまぼこにも使用するが、天ぷらやちくわの味付けの原料として活用していることのほうが多い。
エソが冷蔵中や氷蔵中に、かまぼこにならなくなる理由として、体内でトリメチルアミンオキサイドを分解してホルマリンを作る性質があり、これがたんぱく質を急速に変性させることが原因であることがわかっている。
余談であるが、エソはその身が美味しいのはもちろんだが、その皮も脂肪が多くて旨みに富んでいるため、四国の八幡浜や紀州田辺では、ごぼうに皮を巻きつけてたれをつけてあぶり焼きにして“八幡巻き”という名産品として売られている。

投稿日/2021年9月24日

舞鶴かまぼこの原料魚(その1)  かまぼこ百科⑭

かまぼこ博士のかまぼこ百科


「かまぼこ博士のかまぼこ百科」は、舞鶴かまぼこ協同組合の辻義雄専務理事(舞鶴市民から「かまぼこと博士」呼ばれています。)が執筆され、2011年から約4年間にわたり、舞鶴市民新聞に連載されたものです。かまぼこ、とりわけ舞鶴かまぼこへの愛に満ちた「かまぼこ博士のかまぼこ百科①~㊺」を順次掲載します。読めばあなたも「かまぼこ博士」。そして、舞鶴かまぼこがとても食べたくなってしまうでしょう。
なお、当コラムに掲載するにあたっては原文のままとし、日時や役職、社名等も当時のままとしています。また、今では存在しないメーカー、商品もありますのがご了承ください。

舞鶴かまぼこの原料魚(その1) 

シログチは舞鶴かまぼこの高級品に使われている魚種であり、現在でも、毎日、組合のすりみ工場ですりみにして、舞鶴のかまぼこ屋さんに届けている。
グチ類はスズキ目スズキ亜目ニベ科に属する。ニベ科の魚は頭部に大きな耳石(じせき)を持っているので、よくイシモチとよばれる。
ニベ科の魚が最も多く漁獲されているのが、黄海、東シナ海の以西底引き網漁業であった。 過去形で書いたのは、実は、近年になって以西底引き網漁業の衰退がみられ、ニベ類を漁獲する船団がほとんど姿を消してきたからである。
しかしながら、タイをはじめとする東南アジアにも、日本のシログチとよく似た鰓のうしろに黒い斑点のあるタイワンシログチがいる。ただ、何種類かのニベ類と混獲されるために、シログチだけのすりみは生産されておらず、また、日本の以西底引きで漁獲されたものと比較すると全体的に品質が悪い。
現在では、良質のシログチ原料は、中国の漁船で漁獲して、日本の港に揚げる鮮魚と、中国のすりみ工場でつくったシログチの冷凍すりみに限られている。 お隣の韓国では、日本における“鯛”のように、ハレの席の料理に使われる魚である。
地元舞鶴では、少しだが獲れても、鮮魚としての価値は少ないが、たまにスーパーなどのお刺身コーナーで「クツ」という名前で販売されており、私はたまに買って食べるが、白身の淡白な味の魚である。
ただ、地元で獲れるグチ(地元ではクツと呼ばれる)は、残念ながらかまぼこには、さほど向いておらず、以西底引きで獲れるグチよりも少し品質が劣る。 同様に瀬戸内海でとれるグチも使用するが、これも、鮮度がよくても、舞鶴産と同じで、高級かまぼこには余り向いているとはいえない肉質をしている。
しかしながら、グチ類はしなやかさのある強いアシ(=弾力)のかまぼこをつくるためにはなくてはならない魚である。ちょうど、この食感が舞鶴かまぼこの特徴ということになる。
舞鶴かまぼこは2段加熱(一度に蒸さず、40℃~50℃の低温で蒸してから、90℃以上の高温で蒸しあげる)の製法をとっているが、まさにこれはシログチの弾力を最もうまく引き出す為の加熱方法であり、原料魚のこだわりとあわせて舞鶴の伝統の製法となっている。
ただ、温度加減は微妙で、55℃から60℃の温度で蒸してから、高温で蒸しあげると、まったく弾力のないかまぼこになってしまう。 わずか5℃~10℃温度を間違えただけで全く違う品質の商品になってしまうのである。
この魚は、また、かまぼこのために生まれてきたような魚で、鮮度が少々落ちても、なかなかかまぼこのアシ(=弾力)をつくる能力が落ちないのである。
現在のようにコールドチェーンが完備していなかった時代に、かなり遠くはなれた工場まで運んでからかまぼこにしても、そこそこのかまぼこができたらしい。
しかしながら、鮮度が落ちると臭いがするなど、品質には悪影響を及ぼす為、現在では、グチの秘められたその能力の恩恵をうけることはない。

投稿日/2021年9月17日

舞鶴かまぼこをささえる組合組織  かまぼこ百科⑬

かまぼこ博士のかまぼこ百科


「かまぼこ博士のかまぼこ百科」は、舞鶴かまぼこ協同組合の辻義雄専務理事(舞鶴市民から「かまぼこと博士」呼ばれています。)が執筆され、2011年から約4年間にわたり、舞鶴市民新聞に連載されたものです。かまぼこ、とりわけ舞鶴かまぼこへの愛に満ちた「かまぼこ博士のかまぼこ百科①~㊺」を順次掲載します。読めばあなたも「かまぼこ博士」。そして、舞鶴かまぼこがとても食べたくなってしまうでしょう。
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舞鶴かまぼこをささえる組合組織 

舞鶴かまぼこの特徴として、地元あるいは近海の鮮魚を組合直営工場で生すりみにして、舞鶴のメーカーが全員、それを原料として使ってかまぼこ作りをしているということは何度も述べてきた。 もちろん、近海の鮮魚だけでは量は足らないので、冷凍すりみも購入して混ぜて使っている。 一般に高級品になるほど生すりみの比率が高く、下級品になるほど冷凍すりみの比率が高くなるし、その等級も低くなる。
ただ、舞鶴のかまぼこ業界は、他地区とは異なり、組合を中心とした事業運営をしていることから、使用する原材料は組合の検査室で厳重な検査をして、合格したもののみを購入するという形になっているため、組合員であるかまぼこ屋さんが、勝手に原料を買いつけて、安かろう悪かろうに走ろうとしても走れない仕組みになっている。
他の地域では、各かまぼこ屋さんが独自に、ディーラーさんから原料を仕入れるため、現在のようなデフレ状況になると、末端から値下げ要求があると、値段をあわせるために品質が悪くても、安い粗悪品の原料を使ってでも、コストを下げて対応するというようなケースも多いと聞く。
冷凍すりみといえども、舞鶴で使っている原料の等級は最上級のものであり、他の多くの地区よりも1ランクも2ランクも上である。(同業者に、保管している冷凍庫内を見せると、その等級の高さに驚かれることが多い。)
組合では、原材料の共同購入を進め、現在では、組合員の利用結集率が100%近い状態にある。 これは組合と組合員の信頼関係が究極の状態に達していることを意味するものであり、この信頼関係を損なわないような努力が双方に求められている。
また、冒頭に記した“地元鮮魚から造る生すりみ”を地域ぐるみで共同で生産し利用加工している地域は、全国でみても、長崎と舞鶴くらいになっている。
舞鶴かまぼこ協同組合は協同の購入、保管、配送、販売、検査などの事業を実施し、ほぼ、その事業収益のみで運営されている。 組合員との協労によりここ15年来、一度も赤字に陥ることなく、2年前にはかまぼこ型の屋根を特徴とする新社屋を建てることができた。
特に、他の同業者組合にない舞鶴だけの事業が共同加工事業と共同販売事業と協同検査事業である。 共同加工事業は、すでに説明をした地元鮮魚を生すりみにして組合員に供給する事業である。共同販売事業は、組合員企業による独自の販売のほかに、組合でも組合員が製造した製品を買い上げて、他所の地域に販売するという事業である。 通信販売事業である「ふるさと舞鶴便」も運営し、全国のふるさと出身者を中心に舞鶴の産品を広く販売し、好評をいただいている。
注目の共同検査事業であるが、世界最速を誇る原料検査システムや、できあがった組合員の製品の品質検査なども組合で実施し、各種証明書の発行や仕入れ原材料の決定をするための重要なデータ作成業務などをおこなっており、当事業は全国でも注目されている。    検査というとすぐに専門の職員をという人がいるが、私どもでは、普通の高校を卒業した女性も会社で教育して、事務をしながら細菌検査や各種分析業務ができるように育てあげている。 当組合の職員は、全員が中途採用であり、いずれも他企業で働いてきた経験と専門性を持っているので、配送、営業、事務、総務、検査、オペレーターなどいろんな業務を複数こなすことのできるスーパー(ウー)マンが多い。

投稿日/2021年9月10日

おせちとかまぼこ  かまぼこ百科⑫

かまぼこ博士のかまぼこ百科


「かまぼこ博士のかまぼこ百科」は、舞鶴かまぼこ協同組合の辻義雄専務理事(舞鶴市民から「かまぼこと博士」呼ばれています。)が執筆され、2011年から約4年間にわたり、舞鶴市民新聞に連載されたものです。かまぼこ、とりわけ舞鶴かまぼこへの愛に満ちた「かまぼこ博士のかまぼこ百科①~㊺」を順次掲載します。読めばあなたも「かまぼこ博士」。そして、舞鶴かまぼこがとても食べたくなってしまうでしょう。
なお、当コラムに掲載するにあたっては原文のままとし、日時や役職、社名等も当時のままとしています。また、今では存在しないメーカー、商品もありますのがご了承ください。

おせちとかまぼこ 

おせち料理は、御節料理と書いて、昔は節句に作られる料理のことを指していた。
最近は、特に正月にむけて年末までに用意されるお祝いの料理である正月料理のことをおせち料理というようになった。 現在のように正月からスーパーや百貨店が開いている時代には、味を濃くして保存をよくしたりする本来のおせち料理の必要もなくなり、なんとなく正月のお膳の彩りのような存在になりつつあるのではないだろうか?
おせちは元々、正式には五段の重箱に詰められた料理だった。 一の重には祝肴として田づくり(orたたきごぼう)、数の子、黒豆の三種が入っていた。 かまぼこは二の重に入っていた。二の重には酢の物や口取りといわれる紅白かまぼこ、伊達巻(orだし巻き)、栗きんとん、昆布巻き、お多福豆などが入っていた。三の重には焼き物が、四の重には煮物が、五の重には何もいれない空の重とすることが決められていたが、四の重では縁起がわるいのでそのようにしたといわれている。
それぞれに、新年を迎えての縁起のよいものが料理として使われてきたが、かまぼこは、かならず紅白で入れて、めでたい彩りを演出する役目があるようであるが、元々は神饌(神棚に供するお供え物)の赤米、白米を表すものであったという。
いずれにしても、日本人のめでたさや神聖な色は、ずっと紅白であった。  日本人のDNAにはきっと、この紅白が縁起のよいめでたい色として焼き付けられているような気がする。
おせちの中には、ほかに紅白なますといって、お祝いの水引をかたどった料理もある。
おせちの中に使われている食材は、めでたさを表現するもの、長寿を祈願するもの、子宝を祈願するもの、出世を祈願するもの、来る年の先見性を祈願するもの、幸福を祈願するものなどにわかれている。
その中でも、紅白かまぼこは、めでたさと五穀豊穣を願って加えられたものと考えられる。 上流階級の七五三の祝いの膳にも、昔から紅白かまぼこが使われてきたと言い伝えられているので、とにかく、めでたい席には常連の食品であったことは間違いがない。
今では、かまぼこも、大量生産が可能になり、誰もが食することのできる比較的ポピュラーな加工食品になっているが、昔は比較的裕福で、位の高い人しか味わえないものであったようである。
しかしながら、江戸時代後期の貞丈雑記には「蒲の字、カマとすみて読むことなり。田舎びとはガマとにごりていふなり。」と書かれており、この頃になると、年に何度かは普通の市民でもなんとか、かまぼこを食べることができるようになったのではないかと推察している。
最近、かまぼこも、「舞鶴かまぼこ」のように鮮魚から加工した生すりみを原料とした本格的なかまぼこが少なくなり、他の地区で、おせちに使われている多くのかまぼこが、どちらかというと、味よりも彩(いろどり)を大切にする傾向にあるのが残念である。
おせちスタイルでかまぼをたべていただくのもよいことだが、お雑煮の横に新鮮な地元のかまぼこを11ミリの厚さに切って、皿に盛り、正月を祝って食べていただくほうが、舞鶴らしいかまぼこの食べ方といえるのかもしれない。

投稿日/2021年9月3日

かまぼこ板の役目  かまぼこ百科⑪

かまぼこ博士のかまぼこ百科


「かまぼこ博士のかまぼこ百科」は、舞鶴かまぼこ協同組合の辻義雄専務理事(舞鶴市民から「かまぼこと博士」呼ばれています。)が執筆され、2011年から約4年間にわたり、舞鶴市民新聞に連載されたものです。かまぼこ、とりわけ舞鶴かまぼこへの愛に満ちた「かまぼこ博士のかまぼこ百科①~㊺」を順次掲載します。読めばあなたも「かまぼこ博士」。そして、舞鶴かまぼこがとても食べたくなってしまうでしょう。
なお、当コラムに掲載するにあたっては原文のままとし、日時や役職、社名等も当時のままとしています。また、今では存在しないメーカー、商品もありますのがご了承ください。

かまぼこ板の役目 

「かまぼこの板はいらない。かまぼこの身だけがあればいい。板はもったいない」といわれる消費者の方がおられるのだが、考えようによっては、それは“かまぼこ”という食品の伝統と知恵を否定する考え方だともいえる。
かまぼこは板があったから、現在のように量産が可能になったし、日持ちをはじめとする品質の向上を可能にしたのだと考えてよいだろう。つまり、板はかまぼこの原料である糊のような粘着性の高い扱いのやっかいな魚の肉糊を運び、包み込む運搬(包装)容器のような働きをしているものと考えていただきたいのである。
また、日本人は、古くから、木の香りを楽しんだり、草木から天然由来の保存効果などを発見して活用してきた。 特に最近の化学の発展により、場合によっては木材がプラスチックなど別の素材に置き換わったものなども多数あるが、かまぼこ板は現在でも木を原料としているのはご存知のとおりである。
森林は人間が手をかけて育て、管理してやらなければいつかは荒れてしまうといわれる、実際には、かまぼこ板の原料は風で倒れたり、落雷で折れたり、木を管理する工程で発生する間伐材なども利用しているので、資源の循環としてむしろ、好意的に見ていただきたいくらいのものなのである。 しかし、どんな種類の木でもよいというわけではなく、消費者の好みに応じて、杉材やモミ材が一般的に使われている。 板には上述したようにその板臭があまりに激しいようなものは使えないし、更に板そのものを違う素材で置き換えようとしても、現在のところ、コスト面、機能面で木材に替わるものは見つかっていない。
天然の木には、もともと微細な穴がたくさん開いている。当然ながら、木が生きているときに水や養分を吸い上げた穴が残っているからであり、その空洞が微妙にかまぼこの保存性を支えているのである。
かまぼこの水分は、製造してから一部離水した水は、板の微細な空洞に吸い込まれる。だが、かまぼこの身が乾燥をはじめると、板の空洞にたまった水分がかまぼこの身に補給される。
つまり、かまぼこの身とかまぼこ板の間には適当な水分のやりとりがあるのである。
それが証拠にかまぼこを板からはずして置いておくと、すぐに表面から水分が蒸発して乾燥して変色したり、組織の劣化が起こったりする。
また、かまぼこ板に木材以外のものを探しても、そういう自然の微細構造を人工的に、廉価で作ることが極めて難しく、現在においても木にかわるものはない。
元々、魚肉を練り上げて形をつくる工程では、魚肉は肉糊といわれるほど、粘りと接着性が強くて、何かに身を巻きつけるか、乗せるか、包むか、一気に加熱してしまうしか加工する方法が考えられない。  特に舞鶴かまぼこはソフトであるがコシが強いという特徴を持っているため、特に板の持つ保湿効果は、舞鶴かまぼこの品質(みずみずしさ)を保つ上では必要不可欠のものなのである。かまぼこ板はそのほかにも、かまぼこをスライスする際にまな板が不要で、切るものさえあれば、どこでもカットでき、しかも包丁の刃をいためないという物理的な利点もある。 最近では、全国初となる本物のかまぼこ板を使った「舞鶴かまぼこ手形(特典付きバス乗車チケット)」を発行して、観光にも一役買っている。

投稿日/2021年8月27日

おでんとかまぼこの話  かまぼこ百科⑩

かまぼこ博士のかまぼこ百科


「かまぼこ博士のかまぼこ百科」は、舞鶴かまぼこ協同組合の辻義雄専務理事(舞鶴市民から「かまぼこと博士」呼ばれています。)が執筆され、2011年から約4年間にわたり、舞鶴市民新聞に連載されたものです。かまぼこ、とりわけ舞鶴かまぼこへの愛に満ちた「かまぼこ博士のかまぼこ百科①~㊺」を順次掲載します。読めばあなたも「かまぼこ博士」。そして、舞鶴かまぼこがとても食べたくなってしまうでしょう。
なお、当コラムに掲載するにあたっては原文のままとし、日時や役職、社名等も当時のままとしています。また、今では存在しないメーカー、商品もありますのがご了承ください。

おでんとかまぼこの話 

かまぼこは高タンパク食品であっても、それ以外の油脂分や水溶性蛋白は製造段階で減量する。加工食品はいろんな“健康イメージ”を打ち出して、販売しているが、医食同源ということばの通り、食品は人間に栄養となり、時に薬にもなったりすることがある。
しかしながら、ある特定の食品のある特定の栄養素だけに注目して、偏って食べることは栄養学的にみても好ましいことではなく、おすすめはできない。
通常、ある食品を食べる時はかならず、他の食品からも必要な栄養素を補うことをおすすめしたいが、「おでん」の場合は意識してそうする必要はない。
鍋の中は、あらゆる栄養成分が揃った状態にあるからであり、しかも、日本人のほとんどが好きな料理の一つが「おでん」ではないだろうか?これにはかまぼこ類(天ぷら、ちくわ、すりみ、つみれ、ハンペンなど)がたくさん使われてる。
ごぼう巻きだと食物繊維が、野菜天のにんじんにはビタミンAがいっぱいである。
ビタミンAは油といっしょにとらないと体内に吸収されないのであるが、野菜天は油で揚げたものなので、非常によく吸収される。
また、つみれ、調味すりみ(いわし、さば、など)には血液、脳の働きをよくするEPAやDHAといった高度不飽和脂肪酸が豊富に含まれている。
そのうえ、おでんにはかまぼこ以外にも大根、こんにゃく、卵、厚揚げ、昆布巻きなどが使われ、それらの栄養素も加味されるので、まさにおでんは栄養の宝庫といっていいだろう。
食品というのは、元来、こういう風に組み合わせて食べると身体によい場合が多く、その種類が増えることで不足する栄養素が自然に補われていることが多いのである。
寒い日は家族で鍋を囲んで食べるのが一番であるし、その食卓の光景が一般的になったのは、調べてみると、日本の歴史の中ではそう古いことではないようである。
そもそも昔は、日本も身分制度が厳格であったために、夫と妻、親と子あるいは身分の高いものと低いものが一緒になって食事をすることはなかったようである。
日本の歴史上、最も古く鍋料理が書物に登場したのは1643年(寛永20年)の「料理物語」であるが、その書物によれば、当時は野菜を味噌の上で煮た鍋を炊事場から食卓へ運んで出していたようである。
日本の伝統食品である「かまぼこ」が初めて書物に出現したのが、1115年であるので、鍋料理が登場したのがそれから500年あまり後のことであると考えると鍋の歴史は比較的新しいということになる。
さて、おでんも、所により入っているものが大きく変わる。関東ではおでんの中に、ちくわぶ(ちくわでなくてちくわのような形をした麩)や練り物のすじ(牛すじではない)や白いハンペン、くじらのベーコンまで入っているが普通だが、舞鶴から東京に就職した私の同級生に聞くと、最初は驚いたし、なかなかなじめないでいたと言う。 それぞれの地域でたべるおでんの味にはその土地の文化と歴史が隠されている。 最近、おでんも、地域おこしの目玉になっており、静岡おでん、姫路おでん…..などという独特の地域のブランドおでんが誕生してきている。
ちなみに、10年あまり前に、ミツカンが実施した「家庭における鍋料理のトレンド」調査によると、なべの中で実施率がもっとも高かったのは、やはりおでん(85%)であったそうである。

投稿日/2021年8月20日

食感がつくるかまぼこの美味しさ  かまぼこ百科⑨

かまぼこ博士のかまぼこ百科


「かまぼこ博士のかまぼこ百科」は、舞鶴かまぼこ協同組合の辻義雄専務理事(舞鶴市民から「かまぼこと博士」呼ばれています。)が執筆され、2011年から約4年間にわたり、舞鶴市民新聞に連載されたものです。かまぼこ、とりわけ舞鶴かまぼこへの愛に満ちた「かまぼこ博士のかまぼこ百科①~㊺」を順次掲載します。読めばあなたも「かまぼこ博士」。そして、舞鶴かまぼこがとても食べたくなってしまうでしょう。
なお、当コラムに掲載するにあたっては原文のままとし、日時や役職、社名等も当時のままとしています。また、今では存在しないメーカー、商品もありますのがご了承ください。

食感がつくるかまぼこの美味しさ 

以前、『かまぼこのおいしい厚みを探る』というテーマで、多くの消費者にいろんな厚みに切ったかまぼこを食べてもらって、美味しいと思う厚みに投票していただくという調査をテレビ番組の中で行ったことがある。
その結果、かまぼこを最もおいしく感じる厚みが11ミリであることがわかり、逆にたった1ミリ厚くなっても、薄くなっても、評価が下がるというような、おもしろい結果が得られた。 味は同じでも、かまぼこの厚みを替えるだけで、人の感じる美味しさが変化するという非常に興味深い事実に気づかされたのである。
うどんなどに、むこうが透けてみえるような薄切りのかまぼこが入っていたりするが、これでは、かまぼこの味と食感は楽しめないということになる。
実際に、夏場の暑い時期に、冷蔵庫から出して11ミリをめやすに切りそろえておいた舞鶴かまぼこを冷たいソーメンをすすりながら、食べると本当に美味しい。
それでいて、夏に不足しがちな良質のたんぱく質を摂取できるので、栄養学的にもすばらしく、食欲のない暑い夏におすすめしたい食べ方のひとつである。
話しはそれるが、かまぼこのような良質のたんぱく質が多く含まれている食品を酒の肴にするのは、アルコールから肝臓を守るという観点からも理想的といえるだろう。
アルコールとかまぼこの研究は、実際におこなわれているが、かまぼこの中の特定の成分が働いているというよりも、かまぼこを形成しているたんぱく質そのものが、肝臓のアルコール代謝によい働きをすることが最近の研究で明らかになっている。
さて、業界では、かまぼこの食感は、人間の感覚をつかっての官能検査のほかに、レオメーターという分析装置を使って数値であらわすことにしている。
舞鶴かまぼこの食品研究室では、かまぼこを25ミリの厚さにしたものを、この分析機器にかけ、5ミリ径のパチンコ玉のようなちいさな玉を一定速度で押し込んでゆき、かまぼこが押し切られるまでに玉にかかる応力の変化や、圧縮距離などを計測して、かまぼこの持っている食感の要素となる数値をデーター化していくのであるが、残念ながら、人間の歯やアゴで感じる評価と、全て一致するものではない。
最近、日本人の多くが、かたいものや弾力の強いものを食べなくなっている傾向にあるため、序々にアゴが退化してきて、歯並びも悪くなったり、脳に刺激を与えなかったりするため、いろんな影響がでてきているというこがわかってきている。
高齢化社会となり、アルツハイマー病をはじめとする認知症患者も急上昇すると予想されている。 認知症患者と健常者の食生活に関する疫学調査から、アルツハイマー型認知症患者は健常者に比べて魚の摂取が非常に少ないということがわかり、特に、魚の中に含まれているDHAが、認知症防止に重要な役割を果たすことが知られていたが、かまぼこのペプチドを添加した動物実験でも、確かな効果が認められているという。
わたしは、学者でもないので、こうしたことを断言する立場にはないが、最近の文献を読んでいる限りでは、かまぼこの持つ弾力は、あごにある程度の刺激を与え、栄養としての側面だけでなく、食感を通して脳によい影響を及ぼしているようである。

 

投稿日/2021年3月29日

メバル

 この冬は例年になく雪が多かったですが、ようやく春の足音が感じられるようになってきました。この時期になるとよく見かけるようになるのがメバルの仲間たちです。メバル類は「春告魚」とも呼ばれ、この時期によく食される魚でもあります。
メバルの仲間は、分類の単位で言うと「メバル属」というグループに含まれます。このメバル属には、おなじみのメバル類のほか、ソイ類、メヌケ類なども含まれます。ソイ類は、メバル類に比べるとずんぐりした体型で、ムラソイやヨロイメバルなどを指すことが多いです。ムラソイは、このあたりでもカサゴなどに混じって釣れます。メヌケ類は、深海に生息するメバル属の俗称で、日本海では見かけることはほとんどありませんが、スーパーに行くと冷凍で「赤魚」として売られていることがよくあります。この冷凍の「赤魚」は、東北太平洋以北に分布するアラスカメヌケの事が多いようです。ベーリング海などでは多く漁獲されるため、日本へ冷凍で輸入されています。しかし、ソイ類やメヌケ類は、メバル類からはっきり区別できないため、分類の単位としては全て「メバル属」というグループに含まれているのです。
このメバル属、北太平洋を中心に分布していますが、その種数は110種以上と言われています。厳密に言うのは難しいですが、分類の単位である「属」には、たいてい数種〜十数種が含まれる程度ですから、メバル属の種数というのは驚くほど多いのです。これだけ種数が多いこともあり、メバル属には互いに似ている種類が多く含まれています。このために「同種」「別種」の判断が非常に難しく、昔から研究者を悩ませてきました。
例えば、近年(2008年)、「メバル」は複数の種を含んでいて、アカメバル、クロメバル、シロメバルの三種に分けられるとした論文が発表されました。このあたりでも、ごく普通に見る「メバル」ですが、確かに赤、黒、白(死ぬと焦げ茶になる)の体色のメバルが含まれています(写真1:シロメバル)。

写真1

このメバル三種は、色が異なるだけで「別種」とされたのでしょうか?しかし、一方で魚は環境に合わせて色を変えることが知られています。実は色の違いは単に生息場所による変異ではないのでしょうか?
この話をする前に、「種」とは何かということから始めたいと思います。実は、「種」の定義は本当に難しく、全ての生物に対して共通する「種」の定義は無いといってもいいでしょう。魚の場合、ごく簡単に言ってしまうと、「同種」とは、互いに交配して子孫を残すことが出来るグループで、「別種」とは、互いに交配しない、あるいは交配しても子孫を残すことが出来ないグループのことです。「メバル」の場合に当てはめると、赤いメバルと黒いメバルが交配して子孫を残すことが出来なければ、赤いメバルと黒いメバルは別種であるといえます。もし、これらが交配して子孫を残せるのであれば、赤いメバルと黒いメバルは同種で、色の違いは単なる変異と考えることが出来ます。
しかし、現実問題として、魚が互いに交配して子孫を残せるかどうかを調べるのは難しいことです。水中に潜って繁殖行動を観察できるのは極々一部の魚にすぎません。そこで、どうするのかというと、「間接的」に別種かどうかを調べるのです。つまり、互いに交配しなければ、遺伝子は混じりません。遺伝子が混じらなければ、それぞれの種には突然変異で特徴的な違いが見つかるはずです。さらに、遺伝子が互いに異なっていれば、何らかの形態の違いも出てくるはずです。このような遺伝子や形態の違いから「同種」か「別種」の判断をすることになります。
従来「メバル」と呼ばれていたものには、色が違うものが含まれることは昔から指摘されてきましたが、これらが同種か別種かの判断は長い間決着がついていませんでした。古くから形態的な研究は多くなされてきましたが、「メバル」の色が違うもの同士には、はっきりとした形態の違いが無かったのです。しかし、色が異なる「メバル」は、近年になって、遺伝子から調べられ、ようやくはっきりした違いが認められたのです。この研究をもとに、従来「メバル」と呼ばれていたものには三種が含まれていて、それらがアカメバル、クロメバル、シロメバルと呼ばれるようになった、という訳なのです。こんなに身近な魚での分類が、近年になってようやく整理された背景に、遺伝子を調べる技術がここ数年でかなり発達したことにあります。例えば、ある遺伝子の特定の領域を調べるには、ほんの2、3日でできるようになりました(写真2:遺伝子を自動で調べる装置、DNAシーケンサー)。

写真2

 「メバル」以外にもメバル属には、体色が異なっているために「同種内の変異」か「別種」かの判断がついていないものが結構含まれています。例えば、「ムラソイ」の中には「ホシナシムラソイ」と呼ばれる模様が少ないものや、「オウゴンムラソイ」と呼ばれる黄色の斑紋を持つものがいます(写真3:ムラソイ)。

写真3

これらは、色が異なるだけで形態的にはほとんど同じです。また、この時期、定置網で捕れる「キツネメバル」(体色は灰色)と底曳きで捕れる「タヌキメバル」(体色は薄い茶色)も、色が異なるだけで形態的な違いがほとんどありません。これらは現在研究中ですが、遺伝子レベルでようやく違いが明らかになってきています。なぜ、メバル属には、「色が異なるが別種か同種かの判断がつかない」ものが多く含まれているのでしょうか?
実は、メバル属の特徴の一つに、「胎生」という特徴があります。普通の魚は、体外受精で、雄と雌が水中に卵と精子をばらまいて受精させるという結構「アバウト」なスタイルです。これに対して、メバル属は雄と雌が交尾し、子供は雌のお腹の中で数ミリの大きさになってから産まれます。メバル属では、交尾するときに普通の魚とは異なって「雌が雄を選ぶ」という段階が一つ入ることになります。この行動はかなり慎重らしく、雄は雌の目の前でヒレを広げてアピールするものの、なかなか交尾に至らないことが知られています。まだ正確なことは分かっていませんが、どうやらこの「雌が雄を選ぶ」ときに、自分と似た体色のものを選ぶ(専門的には「同類交配」と言います)ことによって、うまく「別種」の関係を保っているのではないかと考えられています。メバル属は110種以上を含む多様なグループであることを紹介しましたが、ここまで種数が増やすことができた背景には、メバル属の慎重な繁殖行動が関わっているのかもしれません。
【平成23年3月30日掲載】

投稿日/2021年3月11日

アジ

【日本海のさかなの話  最新の魚類学研究から】その③

アジ

いよいよ新しい年を迎える時期となりました。時間がたつのは早いもので、あっという間に一年が過ぎていきますね・・・。さて、一年を通じて舞鶴で水揚げされている魚として、マアジやマルアジ(青あじ)が挙げられます。また、冬は同じアジの仲間であるブリが旬を迎える時期でもあります。今回は、アジの仲間を中心とした話題を取り上げたいと思います。
アジの仲間(分類学上の単位で言うアジ科)は世界中に140種ほど知られています。日本には約60種、日本海の記録を見てみますと、今までに30種ほどが報告されています。アジ科の魚は、世界中の温帯〜熱帯に広く分布しています。日本海は寒いイメージもありますが、意外に多くのアジの種類が見ることが出来ます。
マアジやマルアジには、いわゆる「ぜんご」あるいは「ぜいご」と呼ばれるトゲのある鱗が体の後半に一列に並んでいます。専門的には、これを「稜鱗(りょうりん)」と言います。これがアジの仲間の特徴と思われがちですが、同じアジ科に含まれるブリやヒラマサなどこの稜鱗を持たない種も含まれます。アジの仲間は、体型もいろいろなものがおり、ムロアジのようにほぼ円筒形の体をしたものから(図1)、カイワリ(図2)やイトヒキアジのように体が高く、平べったい形をしたものまで様々です。生態を見てみると、海の表層を高速で泳ぐものから、磯や珊瑚礁周りに生息するものまで多様性に富みます。アジ類の様々な体型は、生態の多様性を反映しているのでしょう。

図1

図2

 秋から冬にかけては、南方系のアジの仲間が舞鶴の市場でもよくみかけられます。今シーズンよく見かけたのは、ナンヨウカイワリと呼ばれる種(図3)で、体が高くいわゆる「ひらあじ」と呼ばれる形をしています。体の側面に黄色い斑点がいくつかありますので、すぐにこの種を見分けることができます。その名前が示すとおり、もともとは琉球列島や黒潮流域に多く見られる種ですが、なぜか今シーズンは舞鶴でも多く見かけました。

図3

 さて、私たちに身近なマアジやヒラマサには、面白い分布の話があります。マアジは日本近海の温帯域に分布していますが、マアジそっくりのニュージランドマアジという種が赤道を挟んだ南半球の温帯域に分布しています。この二首、同種と考える研究者もいるくらい見た目がそっくりですが、分布は赤道で南北に分かれています。同じ現象がヒラマサにも知られています。ヒラマサもやはり日本近海の温帯域に分布していますが、赤道を挟んで南半球にはキングフィッシュと呼ばれる種が分布しており、この二種は互いによく似ているために、同種と考える研究者も多くいます。このように、きわめてよく似た種が赤道を挟んで分布するということを「反赤道分布(はんせきどうぶんぷ)」と呼びます。このような分布パターンは、共通の歴史を反映しているのではないかと考えられています。つまり、かつて氷河期などの地球が寒冷化した時期に、温帯性の魚(マアジやヒラマサ)は赤道を越えることができたのですが、今では赤道付近は熱帯域となってしまったために赤道を越えることができず、北半球と南半球に分かれて分布するようになってしまったのです。地球の歴史をからめて考えると、こういった分布パターンは興味深いものがあります。
ところで、話題は少し変わりますが、ヒラメやカレイ類は、眼が体の片方側に並んでいるというかなり特殊な形態をしています。ヒラメ・カレイ類は、どういった仲間から進化してきたのか、また、ヒラメ・カレイ類に一番近縁な仲間は何なのか、長い間注目されて研究されてきました。ところが、あまりにその形態が特殊化しているため、どのグループに近縁なのかということさえ全く分かっていませんでした。
この状況に、近年、遺伝子からのメスが入れられました。東京大学を中心とするグループが、いろいろな種類の魚の遺伝子を網羅的に調べ、魚類がどのように進化してきたかについての研究を進めてきました。もちろんその中にはヒラメ・カレイ類も含まれており、その結果は全世界の魚類研究者の注目の的となりました。ヒラメ・カレイ類に一番近縁だったのは、驚くべき事にアジの仲間だったのです。見た目にはアジ類とヒラメ・カレイ類は全く異なるために、この遺伝子からの説には懐疑的な意見も多かったようです。しかし、私のお隣の研究室にいる益田准教授は、この説はもっともだと思ったそうです。というのも、アジの仲間は、何かに「寄り添う」という面白い性質を持ちます。例えば、マアジでいうと、幼魚期に流れ藻やクラゲなどに寄り添って泳ぎます。ブリの幼魚「もじゃこ」も流れ藻に付く習性があり、ブリ養殖のための「もじゃこ漁」は、この習性を利用したものです。カイワリ(図2)についても、大きな魚に寄り添うようにして泳ぐことが知られています。もしかすると、このように何かに「寄り添う」というアジ類の特徴が、いつしか海底に「寄り添う」ようになって、ヒラメ・カレイ類のような魚が進化したとも考えられるのかもしれません。泳ぎの達者なアジの仲間と、あまり泳ぎ回らないヒラメ・カレイ類が近縁というのは、おもしろいところです。
遺伝子を調べる技術はここ20年ほどで急速に発展し、今では当実験所でもその分析技術を取り入れた研究をしています。今まではっきり分からなかったことが遺伝子を用いることで明らかにできたことが多々あり、私たちもそのパワーに期待して研究を進めています。またの機会にその成果をここで紹介していきたいと考えています。
【H23.1.1付け掲載】

投稿日/2021年3月1日

かまぼこは贅沢なたべもの  かまぼこ百科⑧

かまぼこ博士のかまぼこ百科


「かまぼこ博士のかまぼこ百科」は、舞鶴かまぼこ協同組合の辻義雄専務理事(舞鶴市民から「かまぼこと博士」呼ばれています。)が執筆され、2011年から約4年間にわたり、舞鶴市民新聞に連載されたものです。かまぼこ、とりわけ舞鶴かまぼこへの愛に満ちた「かまぼこ博士のかまぼこ百科①~㊺」を順次掲載します。読めばあなたも「かまぼこ博士」。そして、舞鶴かまぼこがとても食べたくなってしまうでしょう。
なお、当コラムに掲載するにあたっては原文のままとし、日時や役職、社名等も当時のままとしています。また、今では存在しないメーカー、商品もありますのがご了承ください。

かまぼこは贅沢なたべもの 

日本の水産加工品の多くは、保存性を追及したものが多い。塩水に漬けてから干した魚の干物であるとか、高濃度の塩や砂糖に漬け込んで保存性を増したものであるとか、内臓や味噌やこうじにつけて発酵による香りと保存性を期待したものであるとかが殆どである。
しかしながら、「かまぼこ」だけは、他の加工品のような保存性を大きく期待したものではなく、お魚の身だけを食べたいという超グルメ発想から生み出された唯一の水産加工品であったということである。このことは、京都大学の名誉教授であった故清水先生にお聞きして、メモしていることであるから事実に間違いがないだろうと思われる。実際には、戦後、ビルマ(現在のミャンマー)やベトナム奥地で日本の揚げかまぼこ(舞鶴では天ぷらと呼ぶ)に似たような食べ物を食べている民族がいることが知られ、かまぼこのルーツは東南アジアではないかと推測されている。
それは事実であったとしても、それを現在のように魚肉だけを取り出して、その身を水で洗って色を白くし、魚の臭みや雑味を取り除き、油脂分を取り除いて独特の歯ごたえを出して、しかも、板につけて蒸しあげるというような食品にまで完成させた民族は世界広しといえども日本人しかないのである。
日本人が生んだ世界でも誇れる伝統食品であるかまぼこは、当時から日本人がいかにすぐれた食品加工の技術力を持っていたかを示している。
江戸時代に、ペリー提督が黒船にのって日本にやってきて、徳川幕府に開国を迫る中、当時の市民の暮らしぶりや、文化程度を調べて本国に報告しているものの中に「日本は、鎖国により多くのことは西洋に比べて、技術的に遅れているが、生活の中に根ざしている技術水準は非常に高く、応用力に富んでいる。なによりも新しいことを学んで吸収しようという意欲は非常に強い。将来わが国がこの民族を通商で敵にまわせば、脅威となる国の一つになるだろう」というような内容のことが記されているという。
かまぼこが贅沢品であるというのは、その原料の処理工程を見てもわかる。板についたかまぼこにする魚は、まず、頭と内臓をとり、骨と皮を取り去った身だけをたっぷりとした量の冷たい真水の中で洗うのである。その際に、血合いであるとか、汚れであるとかを洗い落とし、次に水槽を移して、魚の不要な油脂分を浮かせて取り去る。(油脂分のはいったすりみからは弾力のあるかまぼこができない)。最後に水分を搾り取る。
元々100あった魚から、こうしてできあがってくる魚の晒し肉は20くらいになる。つまり元の魚からは5分の1しかとれない晒し肉を原料としてかまぼこが作られているということであるから、いかに贅沢かがわかっていただけると思う。
かまぼこは、塩溶性たんぱく(塩によく溶けるタンパク質)を主に取り出して、これに2%前後の塩を加えて溶かし出し、分子量の比較的小さなミオシンというたん白を網目状に分散させて、さらにこれに熱を加えることで網目が固定されることで、バネのような構造になる。
これがかまぼこのアシ(弾力)といっている独特の食感を生んでいるわけである。
アシは使う原料の魚種によっても、魚のとれる海域、季節によって変動する。このため、地元の鮮魚を使い続けている舞鶴の職人たちの経験と勘と、協同組合の技術支援により、品質が大きく変動しないようコントロールされている。

 

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